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少年よ、『憧れ』を抱け
憧れ
出典:デジタル大辞泉(小学館)
あこがれること。理想とする物事に強く心が引かれること。
人はみな、理想とする物事に恋焦がれる。憧れを持つ。
少年もまた、憧れを胸に抱く者の一人だった。
手を伸ばしても自分には届かないものへの強い想い。憧れ。
いや、少年の場合、手を伸ばせばすぐに叶えられるものではあるのだが、それでは意味がないのだ。
ある少年の物語
「まえーならえっ!」
その号令で少年は腰に手を置く。
少年の後ろに並ぶ児童は少年の背中に向けて真っ直ぐ手を伸ばす。
そう、少年には上背がなかった。
手を伸ばすタイプの前ならえをする機会はなく、いつも列の先頭で腰に手を置いていた。
「いつか、僕だって…!」
少年は、手を伸ばす前ならえに憧れていた。
手を伸ばす前ならえをしていた時期がなかったわけではない。
サトウツカサ(仮名)くんが転校してきたからだ。
少年よりもさらに小柄なサトウツカサ(家名)くんが同じクラスに転校してきたことで、少年の見る景色は一変した。
世界が輝いて見えた。
『自分の視界を遮るもの』の存在がとにかく嬉しかったのだ。
「ありがとう。ツカサ(課名)くん」
しかし。
その景色を見る機会はすぐに奪われてしまった。
ツカサ(加盟)くんの転校である。
おそらく転勤族の親を持っていたツカサ(下命)くんは、たった数ヶ月で少年の学校を後にしたのだった。
「さようなら。ツカサ(亀井)くん…」
中学に上がると、同学年に少年よりも背が低い男がいることに気が付いた。
それも複数人いるではないか!
なんということだろう。
少年の心は浮足立った。
少年の周りの人々はちゃくちゃくと大きくなっていた上、思春期に入り「低身長」&「かわいいと言われること」に対するコンプレックスがさらに膨らんでいた時期。そこに一筋の光が差し込んできたのだ。期待しないはずがない。
「並ぶとき、僕より前に誰かがいるかもしれないんだ!」
少年は思った。
ついに、憧れの手を伸ばす前ならえができるようになる…。
しかし、しかしである。
人生とはかくも残酷なもので、複数人いたにも関わらず、少年より小柄な人物と同じクラスになることはなかったのだ。
「あぁ、無常…。るーるるるるるる…。」
小さく、悲しく、そして小さい背中だった。
高校にあがり、充実した日々を送っていると、身長のことはさほど気にならなくなった。
むしろネタとして進んで使い始めたのだ。
勉強をしなくなったかわりに、人の考えを学ぶ機会が増えた。
そのことが少年に良い影響を与えたのは確実といえよう。
そして、大学へ進学。
大学入学から2ヵ月後、少年はある異変に気づく。
食欲、睡眠欲の飛躍的上昇だ。
「食欲」と「睡眠欲」。
この2つの言葉は少年に、忘れたはず、いや、封じ込めたはずのある言葉を連想させる…。
「成長期」だ。
成長期がなかった訳ではない。
少年も中学時代には20cm弱伸びていた。
ただ、元々が小さすぎただけ。
そう思っていた。
が、そのころから腑に落ちないことがあった。
食欲がほとんどかわらなかったのだ。
しかし、
と、少年は思った。
「仮にあれが成長期ではなかったとしたら?」
「本当の成長期が別にあったとしたら…?」
馬鹿げた考えだということは分かっているつもりだが、「希望」というのは恐ろしいもので、少年はその思考から逃れることは出来ない。
低身長を受け入れているとはいえ、目の前に「背が伸びるかもしれない」という希望が僅かにでも差し出されれば、期待してしまうのが人間というものだ。
そこで少年は身長が高くなるメリットを考えてみた。
- 手を伸ばす前ならえができる。
全人類の憧れを体現することが可能。 - 待ち合わせに便利。
大きいと人ごみでもすぐに見つかる。 - 首が疲れない。
人と話すときに見上げなくて済む。 - 歩数が減る。
脚も長くなる分、脚を動かす回数が少なくて済む。 - モテる。
同じ顔なら背が高い方がいい。というのが女性の一般的な意見であろう。
少年に思い浮かぶのはこれくらいだ。
自身の体験が伴わないことを想像力でカバーする、といったことは少年の不得意分野だった。
続いて少年は背が低いことのメリットを考えた。
- ネタになる。
大きいことよりネタになりやすい。 - 威圧感がない。
どちらかといえば、話しかけてもらいやすい。 - 視線が低い。
俯けば、ほぼ完璧に周囲からの視線をシャットアウトできる。 - 女物の服が着れる。
男女で微妙にデザインが違うものの場合、女物の方が安く、かっこいいことが多い。
…どれもメリットといえるかは微妙なラインである。
低く見積もっても、手を伸ばす前ならえができる高身長の方がいいことは間違いない。
大学生になった少年は、遅れてきた成長期という「希望」を胸に牛乳を飲んだ。
\牛乳にかける想いは人それぞれ/
そして時は現在へ
ここまで読み進めたみなさんは予想だにしていなかったと思うが、この少年とはかつてのとりみどらのことである。
な、なんだってーーー!!
全然気付かなかった…
これでも洞察力には自信がある。
「真冬に全裸で床に就けば翌朝喉に違和感を持つことになる」くらいなら容易に推測できるし、多少本気を出せば「たとえドーナツに穴が空いていたとしてもカロリーはゼロではないこと」だって察することが可能だ。
え?ゼロでしょ?
その私をもってしても、この少年がかつてのとりみどらであることは看破できなかった。
みなさんが予想できなかったことは、誰にも責められることではない。どうか安心してほしい。
とりみどら少年は、少年の心と身体を持ったまま、大人と呼ばれる年齢になった。
童心を持った清い存在だよ!
そして…。
かつて少年だったとりみどらが、今ではなんと2児の父親になっている。
しかし、サイズは少年の頃とさして変わっていない。
「かわいい」は褒め言葉!
ただし、今や2児の父親となっている男なのだ。
中身までそのままというわけがない。学生時代とは積んできた経験が違う。
そこで、改めて低身長のメリットを考えてもらうことにした。
そのくらい任せとけって!!
お手並み拝見である。
刮目せよ!
低身長歴30年以上の権威性を持ったとりみどらが語る、
低身長のメリットはこれだ!
- 警戒されにくい。
女性、子ども、小動物から比較的警戒されにくい。 - 狭いスペースで済む。
低い天井であろうが頭をぶつけないし、漫喫のフラットシートでも十分寝ることができる。 - 重心が低い。
重心が低い位置にあるので転びにくく、腰を痛めにくい。 - 子ども用の椅子にもなんとか座れる。
親せきの集まりなどで人数が多くなった時、席が足りなくても子ども用の椅子になんとか座ることができる。
どうだ!!
・・・。
え?
…ん?
ドヤァ
・・・。
え?なんか変?
所々に年齢を重ねたと見受けられる部分はあるが、これではあまりにも成長がないではないか。
歴30年以上の権威性とはなんだったのか。
いやいや、いいメリットでしょうが!
時が人を成長させてくれるというのは嘘だったのだろうか。
これではあんまりである。
こんなのが2児の父親であっていいのだろうか。
こんな父に育てられる子があまりにも不憫ではないか。
いや、めっちゃいい父親やないかーい!
…この無駄な自信は一体どこから来るのだろうか。
本気で言っているからタチが悪い。
こんな立派な人が父親である自分の子が羨ましいよね!
ため息が出てしまう…。
…あのさ、なんかキミすかしちゃってるけどさ、おれとキミは同一人物だってわかってる?
・・・へ?
おれのことめっちゃディスってくるけど、それは自分のことをディスってるってことだからね?
いやいや、おっしゃている意味がよくわからないのですが…。
だーかーらー!
珠玉の低身長のメリットを提示したのも、父親として自信を持ってるのも、みんなおれ=キミだって言ってんの!
・・・。
ちょっとォォォォ!!
何私が変なこと言ったみたいに言ってんの!?理解できないんですけどォ!この人何言ってるか理解できないんですけどォォォォ!!!
え、何いきなりキレてんの。バカじゃねえのこいつ。
バカって言われたァァァァ!!何?この人何!?なんなんだよォォォォ!!!
だから、おれはお前だっつの。
バカって言った方がバカなんだよ!バーカ!バーカ!!
聞いてねぇし。
てかおれがお前にバカって言おうが、お前がおれにバカって言おうが結局一緒だからね。
ドゥーユーアンダスタン?
oh…
I can’t understand it!
What are you talking about?
あ、うざ。
ごめんそれ腹立つからやめて?
ちょっとォォ!
そっちが英語で言ってきたんでしょうがァァ!!だからこっちも英語で言ったのにィィ!!コミュニケーション!!コミュニケーションの基礎ォォォォー!!!
あー、だからごめんて言ったじゃん。
うるさいよ?特に顔。
KA O HA MI E NA I !
顔は見えないでしょうがァァァーー!!!
仮に見えたとしてもォォ!!素敵なお顔でしょうがァァァァーーー!!!
えっと?自分がさっき何言ったか覚えてる??
なんだっけ?「この無駄な自信が」なんだっけ?
アー、アー、何も聞こえなーい。
…めんどくせーよ、こいつ。
何がめんどいってさ、あのさ、例えばさ、うわっ めんどくせーよ。もう例えるのもめんどくせーよ。
どんだけめんどくせーんだァァ!!
つかアレじゃねぇか、完全に『銀魂』のパクリじゃねぇか!!
聞こえてんのかーい。
うんうん、そうだね、パクリだね。
じゃあ寝るよ。
おっけー。寝よっか。
ってオイィィィィ!!!!
おかしいだろ寝るってェェェェ!!!!
…こいつの頭の方がおかしいと思うんですけどもね。
頭おかしいって言われた…、頭おかしいって言われた…。
…お前アレだぞー!?頭おかしいって言ったら、頭おかしいって言った方が頭おかしいんだぞ!!!
\我が子がこんな大人になる前に!/
\憧れの前ならえをつかみとれ!/
この記事は第3回人類未到達領域クソ記事選手権エントリー作品です。
とりみどらブログは『人類未到達領域クソ記事選手権』を応援しています。
過去の 『人類未到達領域クソ記事選手権』 の振り返りは以下のリンクから確認できます。
- 【クソの惑星】人類未到達領域クソ記事選手権is何?(第一回クソ記事選手権総評含む)
- 第二回人類未到達領域クソ記事選手権総評
めちゃくちゃ面白いから、過去のエントリー作品も読んだ方がいいよ!
2022/2/8追記
2022年2月5日に個別総評・全体総評が発表され、第3回人類未到達領域クソ記事選手権は幕を閉じました。
とりみどらの個別総評
とりみどら@torimidora
— ハス山@Webライター&ブロガー (@hasuyama0526) February 4, 2022
『少年よ、『憧れ』を抱け』https://t.co/49JC5Zhpde#第3回クソ記事選手権 pic.twitter.com/cxaP6yyPie
全体総評
エントリー作品も面白いし、総評も面白い!ぜひ読んでみてください!
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